オーバーホール工程の詳細

■1■ 分解

ケース、ムーブメントのパーツを分解しながら、破損や磨耗を確認

【状態をチェック】
 分解前にまずは時計の状態を確認します。キズの場所や程度、回転ベゼルは重くないか、ベゼルは機能しているか、バックルに問題はないかなど、様々な角度からチェック。リューズ操作だけでもムーブの状態が予測できます。
時計修理・分解1
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【ケース分解(ブレスを外す・裏ブタを外す)】
 バネ棒はずしを使って、ブレスを外します。この時も時計の状態チェックは続いており、ケースとブレスの接続部にゴミが溜まっていないか、そこからサビが発生していないか、バネ棒は交換すべきかどうかも判断します。
 ブレスを外したケースを専用工具に固定し、上部からハンドルを押し付けて回転。これでカキのように固いオイスターケースの裏ブタも外すことができます。もちろん裏ブタをねじ込むときにも専用工具が必須です。
時計修理・分解1
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【ローターをはずして陳列をチェック】
 ガタつきをチェックしながら、ローターと自動巻き上げ機構のモジュールを外すと、香箱から4番車までが現れます。この時点で、自動巻上げ機構と、輪列の油切れが確認できました。
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【顕微鏡で再度チェック】
 微細なパーツの磨耗具合などは、顕微鏡を使ってさらに細かくチェックします。キズミで5倍、約40倍まで拡大可能です。
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【交換パーツを検討・ムーブメントを全分解】
 ケースからムーブメントを取り出し、針と文字盤を外し、ムーブメントの地板から全ての歯車やパーツを取り外していきます。もちろん1点1点、問題がないか診断しながらの作業は、極めて高い集中力で行います。
時計修理・分解1

■2■ 洗浄

ムーブメントも外装も、輝きを甦らせる

【ひどい汚れの仮洗い】
 油がこびり付くなど、汚れがひどいパーツは洗浄機に入れる前にベンジンで仮洗いします。洗濯機に入れる前に衣類のひどい汚れを仮洗いするのと同じです。ベンジンも常にキレイな状態を保ち、ひと手間でも手を抜きません。
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【パーツをかごに仕分ける】
 パーツを3つのかごに分類します。明確な規定はありませんが、パーツの種類や硬度によって、洗浄中にキズがつかないように配慮します。超音波洗浄の特質上、気泡の発生源に近い下側ほど油汚れを落としやすいので、その点も考慮します。
時計修理・洗浄1
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【超音波洗浄機にかける】
 4漕を各5分で計20分。第1漕では、気泡がパーツにあたって割れる際に発生する超音波と洗浄液が油を分解します。第2・3漕では遠心力と特殊液ですすぎ、第4漕で温風乾燥させます。
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【ケース・ブレスの磨き】
 ケースやブレスを研磨します。引っかきキズや擦りキズを消すため、細かな作業を要する部分にリューターを使用します。ブレスやバックルなどに深いキズがある場合はスティックにサンドペーパーを巻きつけてゴシゴシ。職人ならではの手の感覚が重要になります。
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【ラグのサテン仕上げ】
 ラグがサテン仕上げになっているモデルについては、丁寧にヘアラインを手作業で入れていきます。サンドペーパーを巻いた工具を手前から奥へ一方向のみに滑らせていきます。
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【超音波洗浄機・スチーム洗浄】
 仕上げ面にキズがつかないように、非接触の浴槽型超音波洗浄機によって洗浄します。約30分、専用洗浄剤の入った液に浸し、超音波の振動でバフ粉をきれいに落とします。ブレスのコマの間に溜まったしつこい汚れにはスチーム洗浄を施すことも多くなります。布上にブレスをおいてスチーム噴射し、長年の汚れが一気に洗い落とします。
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【乾燥機で乾かす】
 超音波洗浄とスチーム洗浄で完璧にきれいになったパーツを乾燥機にセットして水分を除きます。こうしてリューズやバフでキズをとり、汚れを落とすと、この研磨の工程だけでも約1時間はかかります。

■3■ 組み上げ

 微細なパーツにも薄い油の被膜を作って歯車を組み直せば、時計は息を吹き返します

【必要な場所に適量の油を入れる】
 洗浄して完全に洗い終わったパーツを、油を注しながら組み上げていきます。動作頻度の少ない部品には高い粘度で長時間保護できるものを、逆に動きの激しい部分には比重の低い油を選択します。6種類もの油を職人の微妙な感覚によって、適量を適所に注いでいくことになります。
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【輪列を組み上げる】
 歯車のかみ合いに気をつけながら、輪列を組んでいきます。ピンセットだけでも何種類もあり、個々人が使いやすいようにカスタムしています。ちなみに歯車は歯の部分をピンセットで掴むことはなく、中心部を持ちます。
 受け部分の地板にも注油します。穴石の直径に対して 1/2以上 2/3未満の油を注すのですが、ピン先に取った油を適宜取り除きながら量を見極めるは簡単ではありません。
時計修理・組み上げ1
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【香箱をセット】
 純正のゼンマイをパッケージから取り出し、香箱の上にセットします。周辺部を落とせば、すっぽりと香箱内に収まる仕組みです。ここにも粘度の高いグリースと油を塗布して動きをアシストします。
 香箱を組み込んで、あがき(上下の遊び)調整を行います。テンプを含めてすべての歯車には、このあがき調整が必要で、日常使用で最大の性能が発揮できるようにセッティングするには、熟練職人ならではの巧みの技が必要です。
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【顕微鏡でアンクルのツメに注油】
 アンクルのツメ石は激しい動きを長時間繰り返すため、摩擦防止のために粘度の高い専用油を注します。顕微鏡を覗きながら、ピンセットで持ったアンクルのツメ石をわずかに油に浸します。
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【磁気抜き】
 パソコンや携帯電話など、磁気発生物にかこまれている現代人にとって、時計の磁気帯びは宿命ともいえるものです。方位磁石を近づけて方位針が動けば消磁の必要あり。消磁装置で磁気を取り去ります。
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【タイミング調整】
 ロレックスの現行ムーブメントは、緩急針ではなくマイクロステラスクリューと呼ばれるテン輪のナットで精度調整を行います。専用工具のマイクロステラを使いますが、一度で精度を出すのは至難の技です。
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【精度をテスターでチェック】
 精度テスターの台座に時計をセットします。精度は日差5秒以内であればいいです。同時にテンプの左右への振りの誤差(片振り)の値を0.0に近づけ、テンプの振り角を270°から300°の数値内に収めます。
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【文字盤の取り付け】
 文字盤をムーブメントにセットして、時分秒針を取り付けます。研磨工程からあがってきたピカピカのケースにムーブメントを収め、リューズを付け、裏ブタを専用工具でねじ込めば組み上げ完了です。

■4■ 最終調整

防水検査、1週間の巻上げ&精度チェック。日常使用を想定した最後の総仕上げ

【防水検査】
 ムーブメントが入っているので、水ではなく空気圧でチェックする機械を使います。時計によっては30気圧で大丈夫でも低圧でダメな場合があるので、高圧と低圧の両方で徹底検査を実施しています。
時計修理・最終調整 時計修理・最終調整
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【ゼンマイの巻上げと1週間の精度チェック】
 時計は実際に腕に着けてきちんと動かなくては意味がありません。そのためオートワインダーという自動巻上げ装置に時計をセットし、また外して精度を測定、という作業を 1週間繰り返しながらの調整になります。
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【最終タイミング調整】
 1日10時間巻き上げては外すといった日常使用を想定しての1週間の精度チェックに問題なければ、ムーブメントの調整は完了します。もし問題が発生したら、ひげゼンマイを0.001mm単位で調整し直すこともあります。
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【最終検品】
 リューズによる巻上げやカレンダーなどの機能チェック、外装にゴミがついていないかなどの最終確認を行います。1週間のワインダー検査で付いたブレスのコマ間のホコリも決して見逃しません。
 ブレス内側にキズがつかないように1本1本を丁寧にパッキング。
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